3.マグナ50との出会い

「F1タービンの売れ残りの在庫処分かあ……すっかり価値が落ちたのかねえ……。しょーがねーよなァ。頭でしかモノを考えられねェ奴は『新しいほど優れてる』ソコから抜け出せねえワケだからサ」(「湾岸ミッドナイト」楠みちはる・木村:28巻 P.56-57)

やっぱ、カブかなあ

最初のDioがそろそろあちこち壊れだしてきたので、新しい原付を買うことにした。時期は2007年11月。排ガス規制が2007年10月からなので、市場からは新車の2ストやキャブ車ってのが全部消えていた。こっちはそんな大事なことが起こったなんて全然知らなかったので、後になって考えると最悪のタイミングだったと思うんだけどね。予算は15万。まあ原付なんでこれぐらい出せば新車が買えるぜ、と意気揚々とショップをのぞきに行った。Dioでスクーターってのはもう限界を感じていたので、今度はもっとちゃんとしたバイクといえるような原付が欲しかったんだよね。条件としては「長距離のツーリングにも使えること」「膝揃えて乗らなくてもいいこと」の2つ。でもそうなるとほとんどのスクーターが候補から外れる。いまどき、スクーターでない原付、っていうと、ほとんど選択肢が限られてくる。

最初は、もうずいぶんとオッサンなんで、おっさんらしくカブでも乗ろうか、と思っていた。何しろバイク史上、世界に冠たる原付である。バイクの生産台数歴代世界一位、しかもその基本的な設計思想ってのは初代からほとんど変わってない。本田宗一郎と藤沢武夫によるホンダイズムの結晶ともいえる名車中の名車である。なにしろバリバリ伝説の巨摩郡が「年取ったら乗ってもいいかも」とまで言った原付であるんだから。それに町でもカブのカスタム車とか、派生車種のリトルカブなんかをカスタマイズしてる例なんかもよく見かける。確かに新聞配達御用達の原付でもあるのだけど、そういうオシャレな面も持っているわけだ。

カブがそれだけ名車である最大の理由は、そのエンジンであろう。カブが搭載している横型カブエンジンってのは「超低燃費」「超高耐久性」を誇る。燃費はメーカーカタログで現行のFI車種をでさえ110~116km/L、かつては180km/Lなんて信じられない値を出していた。まあ実際の公道上では45~90km/Lってとこだが、それでも十分に他車を圧倒する低燃費である。*1またメーカーの開発部でさえ「何十万キロの耐久性があるのか分からない」というほどの頑丈さを持っている。よくバイクの専門誌などで「カブのオイルに天ぷら油を入れて走るか」といった実験をやっているがそれでもちゃんと走るし、長期間ほとんどノーメンテで走っているカブでオイル交換しようと思って開けたらオイルが2~3滴しか落ちてこなかったなんて話もある。経済性から見たら、バイク用4ストエンジンとしては、ほとんど究極のエンジンと言ってもいいかもしれない。また馬力面でも過去最高5.5psを出力し(最近の車種ではデチェーンされて3.4ps程度であるが)、原付用4ストエンジンとしては十分な馬力を持っている。また実用エンジンでありながら8000回転以上(最高1万1500回転ぐらいまで)の高回転も許容する懐の深いエンジンでもある。

でも個人的にカブにイチャモンをつけるとしたら、そのスタイルがあまりに独特過ぎるんだよね。確かにモペット型としては洗練された形ではあるが、バイクとしてみた場合はスクーター寄り過ぎる。実用バイクとしてのイメージが強すぎるし。まあ元々が「そば屋の出前持ちが片手、草履履きでも運転できること」ってのが目標だったんで、それもそ~だろ、とは思うけど。機構的にはフレームが低床バックボーン型であり、ダイヤモンド型やクレードル型といった形式にくらべ剛性が低い。またこれも個人的な趣味なんだけど、後輪タイヤが細すぎる。バイクの駆動輪ってのはもうちょい太い方が安定して地面に駆動力を伝えられる。まあそんなことは、あくまで個人的嗜好の範囲であって、カブが実用、趣味、両面に渡って揺るぎない実績を挙げているのは誰だって認めざろうえない。まあ、俺もやっぱカブかねえ、と色々ショップを巡っていたわけだ。

マグナ50、それは「理想のカブ」

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で、何件目かのショップで、見つけちゃったのよ、マグナ50を。色は黒にタンクに白のコブラライン。年式としては2003年式だと思う。最初は車格がデカイので125ccクラスかねえ、と思っていたのだけど、よくみると、なんと50ccの横型カブエンジンを載っけている。「え~っ、ってことは原付1種? 原付免許で乗れるってことじゃん!」。俺はそれまで原付にはそれほど興味がなかったので、どんな車種があるのか調べたこともなかった。まあ、ほとんどカブで決まり、と思ってたし。でも、マグナ50ってのをよくよく見ると、かなり惹かれるモノを感じたわけ。

マグナ50に対する認識ってのは人それぞれだろう。「原付アメリカン」「でかいMT原付」。でも俺の認識は「理想のカブ」である。マグナ50のフレームはダブルクレードル型で剛性は十分、後輪タイヤも4.50-12で、結構ブッとい。スクーターではなくてバイクらしいスタイル。俺がカブに持っていた不満を解消した、理想のカブの形がそこにあったのね。当時ホンダの新車原付としてはエイプもあったのだけど、残念ながらあれは横型カブエンジンじゃない。その時点で俺の選択肢からは外れる。カブ以外の横型カブエンジン搭載車にはモンキーもあって確かに面白いバイクだと思うのだけど、あれは車格があまりに小さ過ぎる。俺の場合、長距離ツーリングにも使いたかったので、モンキーだと疲れるのは目に見えてる。その点、マグナ50なら車格的にも125ccクラスだから、何の不満もない。

マグナ50って原付は、俺の個人的感想としては「カブを一般的なバイクとして再デザインしたらどうなるか」というのが設計コンセプトじゃないかと勝手に思ってる。そのため、動力系はカブで、その他の部分を一般的なバイク、しかも125ccクラスの車格というバランスになっている。アメリカン、ってのはあくまで、たまたまなんじゃないかな。従来車種のジャズがそこそこ成功してたし(弱点は6V車ってことぐらいだったねえ)。個人的には別にマグナ50がアメリカンでなくても、全然構わなかったと思う。まあエンジンパワーが車重に対して非力である、というのが最大の弱点だけど、横型カブエンジンってのは4miniカスタムを中心としてパワーアップする方法はすでに確立されている。ボアアップして原付2種にしたらちょうどいいバランスになる、ってのが個人的見解かな。そのためカスタムのベースとしても、またとない素材といってもいい。バイクとしてのトータルのバランスを考えたら、モンキーより面白いと思う。まあ別に手を加えないで、ノーマルでトコトコ乗る、ってのも、カブの派生車と考えたら十分にありだけどね。マグナ50ってのは原付には違いないのだけど、バイクとして見た場合も非常にバイクらしい正統的なデザイン。ホンダの本気と遊び心が垣間見える、名車のひとつだと思う、個人的にはね。

って訳で、そのマグナ50を隅から隅までよ~くチェックしたのだけど、どこもピカピカ、傷らしい傷もまったくない。メーターで走行距離を見たら1200kmぐらいしか走っていない、ほとんど新古といってもいい極上車。どノーマルだったし。ただそれだけに、お値段も相応。27万円だった。最初の予算のほぼ倍なわけで、「げ~、中古の原付が27万もするのか~」ってその時はヒジョ~に驚いたのだけどね。でもマグナ50ってのは新車価格で約30万だから、中古とは言え極上車ともなれば、今考えるとそれぐらいでも、まあ妥当な線(と、自分を納得させたw その後、そのショップには、結構ワガママも聞いてもらってるので、そんなに高い買い物でもなかったと思う)。俺としてはその場で即決したかったのだけど、一応、他のショップも回って、他にマグナ50の出物がないか探したわけ。でも、ここで見た以上のタマってのはなかった。松山にはホンダドリームもあるけど、もう、扱ってなかったしねえ。ってわけで、予算を大幅にオーバーしたのだけど、そのマグナ50を買っちまった、ってわけ。

マグナ50の基礎情報

  • 通称名 - MAGNA FIFTY(マグナ フィフティ)
  • 型式 - BA-AC13
  • 製造メーカー - 本田技研工業株式会社
  • 製造年 - 1995年4月~2007年10月
  • 排気量 - 49cc(原付1種)
  • 乗車定員 - 1名
  • 価格 - 29万9000円~30万円

製造期間が12年に渡るロングセラーモデルである。形式としては7種類あるが、2代目以降はほぼカラーリングの変更が主であり、大きな仕様変更はない。

中古市場の現状(2011年6月現在)

ロングセラーモデルだけあって中古市場にもそれなりの台数が出ているが、人気車種であることから生産中止から4年経った今でも、程度のいいノーマル車は高値安定の傾向にある。

中古車を選ぶコツ

マグナ50もそうだけど、すでにメーカーでは生産中止の絶版車だと中古しか選択肢はない。新車だったらどの店で買ってもそう変わりはないと思うけど、中古車の場合、ヘンな車を買ってしまうと後々後悔することになる。だって安い買い物じゃないんだからさ。ってわけで、中古車を選ぶ際のコツを紹介してみようと思う。

現物を確認できること

中古車を選ぶ場合は、現物を直接確認できることが絶対条件。細かな傷であるとか錆の状態ってのは見てみないと分からないからね。中古車の中には事故車とかニコイチなんてのも混じってるから、そういうのは写真だけでは判断できない。最近ではインターネットで通販しているショップも多いのだけど、よっぽどの場合を除いて、実際に行って現物を確認できる範囲のショップがいいと思う。オークションなんかで個人取引をするケースもそう。まあ、ジャンクとして部品取りにする予定なら構わないけど、そうでないなら安全面から考えても自分の目で確認するのは当然だと思う。

できるだけノーマルに近いこと

中古車市場ではノーマルが最も価値が高い。時にフルカスタムとかしてる場合もあるけど、よほど気に入った場合でない限り、ノーマルを買ったほうが無難。というのも素人が中途半端にイジったカスタム車ってのは、ノーマルよりバランスが悪いケースが多いからだ。ただしカスタム車でもちゃんと手間と金かけてるお値打ち品ってないこともないので、そこは見る目と運と度胸次第。

試乗させてもらえるなら試乗すること

実際に試乗させてもらえるならそれに越したことはない。カスタム車で試乗NGなら、個人的にはすっぱり諦めた方がいいように思う。なお試乗する際、自分の技量をよく考える事。マニュアル車を運転したこともないのにマニュアル車に試乗させろ、ってのはそりゃ無茶な話である。

メーターの走行距離は目安程度と考える事

中古車の場合、走行距離が少ない方がそりゃお値打ち品である。しかしメーターに出てる走行距離ってのは、あくまで目安程度に考えておいた方がいい。メーターなんて交換が可能だし、昔はメーターの走行距離を逆回ししてたなんて例もあったみたいだし(最近のメーターだと無理だけど)。タイヤの減りとか全体の様子から、走行距離を判断する方が無難である。

情報収集をしっかりすること

原付の中古車の場合、車検証に製造年が書いてないので、何年に製造されたか分からない。そのため、型式や細部の仕様の違いから、製造年を調べておく必要がある。マグナ50の場合などもロングセラーモデルなので、世代によって色やロゴの違いなんてので判断できる。正確に知りたい場合は、車体番号(フレーム号機)を調べるといい。これらはインターネットで調べるのがてってとり早い。また購入予定のショップの評判なんてのも調べておいた方がいいだろう。クチコミって、案外バカにできないんだよね。

信頼できるショップを選ぶこと

バイクってのは買ってオシマイ、ってわけじゃなくて、その後もメンテナンスとかでいろいろ手をかける必要がある。全部自分でできるならともかく、やはりプロに任せた方がいいこともかなりある。そのため、買ったショップとは長い付き合いとなると考えた方がいい。中古車を買う場合は、ショップ選びが最も重要だと思う。
ショップを選ぶコツは、まず、売っているバイクがキレイであること。売り物をピカピカにしておくなんてのは商売の基本である。時にバイクを雨ざらしにして売ってるようなトコもあるけど、そんなショップは絶対に選んではいけない。故障して店まで行けないときは、車で取りに来てくれるような店の方が親切。またやけに改造主体なショップも避けた方が無難。そういう店ってカスタムで利益を上げたいから、必要もない改造を勧めてきたりする。*2「うちはノーマルの販売、調整しかしませんよ」ぐらいの態度の店の方がお勧めできると思う。いざとなったら、そういう店の方が融通が効くし。できれば、かなり年配のいかにもバイク屋のおっちゃん、みたいな人のいる店の方がいいんじゃないかな。全国規模のバイクチェーン店も悪くない選択だと思うけど、店によっては技術力の差がかなりあるので注意が必要。技術のしっかりしたトコロを選ぶなら、メーカー直営店もいいかもしれない。ホンダだったらホンダドリームとかね。ただしメーカー直営店ってのは純正品の取り付けはしてくれるけど、社外品は基本的にはNG。買ったショップがどうしても外れであった場合、他のちゃんとした店を探した方がいい。中古バイクの相場ってのは、インターネットで検索すれば大体のところは分かる。それとあまりにかけ離れたボッタ店はやめといた方がいい。まあ、買う前にショップの人とよく話してみて、信頼できる人のいるショップを選ぶことが重要だと思う。


*1 ホンダ主催の低燃費競争(通称・エコラン)では、カブ50を使用する市販車クラスでは最高541.461km/L、カブのエンジンをベースした専用競技用車両では最高3435.325km/Lといった、ほとんど信じることが難しい超々々々低燃費を記録している
*2 俺の知り合いから、原付免許しかないの知ってるのにショップに勝手にボアアップされてしまったという相談を受けたことがある。そこまでいくと悪質を通り越して、犯罪的とさえ思う