男一匹ガキ大将
漫画。本宮ひろ志の出世作。竹田津恩の少年漫画ベスト1。
西海村に育った少年、戸川万吉の半生記。最初はちまちま地元でガキ大将をやっていたのだが、株で大もうけするわ、全国3万人の不良学生のドンになるわ、警察相手に赤姫山で篭城戦するわ、特等少年院に入っちゃうわ、10代で結婚して子供作っちゃうわ、巨大企業グループの2代目になるわ、かなり破天荒な物語。しかし最後には全てを捨てて一人旅立ってしまう。そういう意味ではアンハッピーな物語。
爽快な所は、全国3万人学生のドンになるくだり。当時は高度経済成長と学生運動の余熱が残っていた時期で、戸川万吉のような純粋な上昇志向というのはかなり共感があった。富士のふもとで大決戦を行うのだが絶体絶命のところから大どんでん返しで勝ってしまう。まあそれもありというところで(本当はそこで死んでしまって「完」になるハズだったそうである)。
途中、万吉は運命の女、あゆみと知り合う。そして女を取るか、自分の野望を取るかの二者択一を強制される。結局自分の野望を取るのだが、女と両方取ってもよかったんじゃないかと個人的には思う。まあ、それで話は盛り上がるんだけどさ(ちなみに女を取った場合の作品が「俺の空」だと思っている)。
そしてこの作品の最大の面白い所は、若くして全てを手に入れた万吉が迷走する所。どうも愛蔵版では本宮自身が納得いってないらして後半部分が大幅カットされているらしいのだが、もったいない話だと思う。というか、見せ場はそこなのにさ。万吉は自分の上昇志向によって運良く全てを手に入れた。しかし手に入れてみたら、それの使い方を自分でわかっていなかった。堀田に富士の決戦で「お前はなんのためにドンになりたいのか」というセリフを吐いたが、実は自分自身にも明確なビジョンがあるわけではなかった。だからそれからは防戦一方。石油戦争のときもそうだし、水戸屋の若戦争の時もそう。権力を手に入れる、というのは目標として誰でもあこがれることなのだが、実際何のためにそれを手にするのか、そしてそれを適正に行使できるか、という点はあまり触れられていなかった。結局その答えを出すことができずに万吉は全てを捨てて旅立ってしまう。まあ、仕方のないことだとも思う。
ちなみに俺の一番好きなキャラクターは鬼頭弟。鬼頭兄というのはかなり強烈なキャラクターなのだが、弟はそれを上回るキャラクター。一時期は万吉の分身ともいえる片目の銀次をたらしこんだぐらいでさ(いやあ、銀次っていうのもかなり好きなんだけどさ)。一匹狼でしかも集団と同じ威力を持つという人物。まあ、結局は万吉の子分になっちゃうし、なかなか見せ場もないんだけど、個人的にはかなり気に入ってる。
一時期はかなり入れ込んだ作品で、師匠にも「お前、もしかして万吉になりたいんじゃないの?」といわれたことがある。まあ、当たってなくもないんだけどね。そういう意味でも記憶に残る作品。